陰陽のバランス 心法ここがポイント!

懐素の人間像について書いた際、「両極のバランス」について少しふれました。これはとても重要なポイントなので、詳しく述べたいと思います。


両極というのは「陰と陽」のことですが、「中国の根本的考え方」としてこれはどうしても理解が必要です。「中国の・・・」と書きましたが、これは中国だけの独特の考えというのではなく、大自然の道理を古代の中国で体系的に認識したということであって、この宇宙、地球で起こっている事象を表す考え方です。難しそうだと感じられるかもしれませんが、自然の原理ですので、実はとてもシンプル、どんなことにも応用の効く考え方です。


陰と陽は、全く相対する立場でありながら、その移り変わりの過程では、陰の中から陽の要素が大きくなるとともに、陰の要素が小さくなる、またその逆も同じという仕組みでつながっています。


季節の移り変わりで考えるとわかりやすいかと思います。

夏と冬は全く相対する季節ですね。しかし、夏から一気に冬に変わることはなく、だんだんと陰の気が増すとともに陽の気が減少していき秋を迎え、さらに陰の気が増し、陽の気が減少、ついには冬となる、そして陰の気がMAXとなるとそこから陽の気が増してきて、それと同時に陰の気が減少して春となり、さらに陽の気が増し、同時に陰の気がより減少する、そうしてまた夏を迎える、という流れでつながっています。

ここで大事なポイントは、陽の気がMAXとなり夏至、陰の気がMAXとなり冬至となるわけですが、夏至は、陽の気100%、陰の気0%、冬至は陰の気100%、陽の気0%ではないということ。どんなに陽の気がMAXになろうが、そこに陰の兆しは僅かでも存在していて、0になることはなく、また逆も然りです。


ところで、それが書となんの関係があるのか?


「書は人なり」ですから、書から書き手の人間像を導き出せるわけですが、書から人物像を想像したとき、様々な形容をしますよね。例えば「彼は積極的な人だ」というとき、無意識に消極的な人と比べて、そう形容しています。


しかし、ただただ積極的な人ってどうでしょう?自分の望むままに周りの事を考えず、我が物顔でなんでも出しゃばる人だとして、そんな人物は魅力的でしょうか?そんな積極性を取り入れることがいいことでしょうか?


「積極性」が人として効果的であるためには、その真逆ともいうべき、冷静さや客観性、物事を深く考える能力などが同時に問われるわけです。どちらかだけでは片手落ち、両極のバランスをうまく持ち合わせることではじめて「積極性」が活きてきます。


大前提として、書からその書き手である人物を学ぶのは、自分をより良い状態に引き上げるためです。ですから、その書から「積極性」を学ぶためには、「積極性だけを持った片手落ちの書」ではなく、「冷静さや客観性と積極性を兼ね備えた書」を学ぶ必要があります。


あなたが素晴らしいと思う書の内包されている陰陽の両方を感じ取って、その絶妙なバランスを自分に落とし込んでいくように臨書しましょう。


こんな人物をどう思いますか?

「とても厳しい人だけれど、情に厚く涙もろい」

「普段は冗談ばかり言ってとにかく楽しい人だけれど、仕事となると別人のようにくそ真面目」

相反する要素を持ち合わせていて、そのふり幅のスケールが大きければ大きいほど、その人物は魅力的です。


ただ厳しい人、ただよく泣く人、いつもふざけている人、冗談が全く通じない人、そんな人はつまらないですよね。しかし、厳しい人は、その厳しさの中にあたたかいものがあるはずなんです。愉快な人はその朗らかさの中に、ピリッとした緊張感があるはずなんです。


陰と陽は、互いに僅かにでもその兆しを持ち合わせています。豊かに育った要素をさらに輝かせるためには、眠っているもう一つの兆しを呼び起こし、両極のバランスを整える、それが書を学ぶことで可能になります。心法書道の肝はそこにあります。







  

心法書道

人は自然の一部 自らがよりよく成長するために 大自然の理を理解したい 世界の調和は自らの内なる世界の調和から 書道はそれを可能にするとてつもない芸術です

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